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第11話 その国の未来、本当に大丈夫ですか?

last update publish date: 2026-06-26 16:30:19

「まるでミツバチですわね」

アイリスを囲むオーウェン達の姿は女王蜂と働かぬオス蜂のようだ。

(ミツバチの雄は交尾を終えたら女王蜂から捨てられてしまうのよね?)

いつかオーウェン達もポイッと捨てられてしまうのではないか――そんな想像にウェルシェはぞっとした。

「淡い桜色の髪は、スリズィエを思い起こさせはしますけれど……」

スリズィエはピンク色の5枚の花びらが可愛らしい。その木を呼び名に冠する少女――アイリス・カオロ。

彼女が得体の知れない化け物のように思えてきた。少なくとも彼らが思うような聖女では決してない。アイリスが聖女なら、見目の良い男性限定で交流を持つはずがないからだ。

「あんなバッタもん聖女の何が良いんですの?」

ここにカミラがいれば、バッタもんにはバッタもんを嗅ぎ分ける嗅覚があるのですねとでも言いそうだ。

「普段おっとりしてるのにウェルシェも言うわねぇ」

「だってイーリヤ様やキャロルの方が圧倒的に素敵だと思いますわ」

「ふふ、ありがとう」

キャロルが屈託なく笑った。

本当に可愛いとウェルシェは思う。こんな素敵な婚約者を蔑ろにしているクラインは何を考えているのか。

確かにアイリスはかなり容姿に優れている。だが、どす黒くおぞましい何かが、内から這い出してきそうでウェルシェは彼女を好きになれない。

ここにカミラがいれば苦笑いして同族嫌悪ですか?と言いそうだが。

「でも、もう良いの」

珍しく琥珀色の瞳に翳りが見えた。

婚約者クラインの事は吹っ切れたわ」

「キャロル……」

ウェルシェはいつも明るいキャロルが好きだ。だから、彼女の眼差しを曇らせるクラインに腹が立った。

「実はね、もう彼との婚約の解消が決まっているのよ」

「うそっ!?」

「まだクラインは知らないと思うけど……既に家同士の話し合いがついているの」

キーノン伯爵は息子の振る舞いにおかんむりなのだそうだ。

キーノン家は武功で出世した騎士の家柄で、実直な伯爵は息子の不義理を許せなかったのだろう。

「幼馴染としての情もあったけど、今回の件でさすがに愛想が尽きたわ」

「ご自分にとって本当に大切なものが見えていないのですね」

一学年上のクラインは16歳のはずだ。まだ年若く未熟なのだと言えばそうであろう。

だが、彼は国王候補のオーウェンの側近だ。これから大きな責任を負う立場になる。貴族の義務を疎かにするのは半人前だからと許されない。

それはオーウェンや他の側近達にも同じことが言える。いったい彼らはどう責任を果たしていくのだろう。理屈に合わない彼らの行動がウェルシェには不思議でならなかった。

「キャロルにはもっと相応しい殿方が現れますわ」

「ふふふ、期待して待っておくわ」

ウェルシェは親友を励まし、それに応えてキャロルは笑う。

だが、その笑顔はどこか寂しく、強がっていてもキャロルは傷ついているのだとウェルシェは悟った。

ふと、窓の外から笑い声が流れてきた。

見れば男達がみな笑顔をアイリスへ向けている。清らか··な美少女を美男子が取り囲む。それはとても絵になる朗らかな光景であった。

何も知らない画家が見たなら筆を取りたくなっただろう。

だが、その裏では彼らの婚約者が枕を濡らしているのだ。

「呑気なものですわね」

「彼らにとって今の幸福が全てなのよ」

「後悔先に立たず、転ばぬ先の杖ですわ」

いずれ彼らは自分たち愚行のツケを払わねばならなくなる。先の見えない愚者達だと、ウェルシェは軽い眩暈を覚えた。

「オーウェン殿下ご自身に先見の明が無くとも、賢臣を傍に置き、良く耳を傾けていただければ問題はないのですけれども」

「それは無理じゃない?」

ウェルシェの希望的観測をキャロルはにべもなく否定する。

「聞く耳を持たないからこそ、口喧くちやかましい側近を遠ざけたんだもの」

「いつかしっぺ返しで痛い目を見られるのでしょうけれど……巻き込まれる人達はたまったものではありませんわね」

オーウェンは次期国王であり、その側近達は将来この国の高位に就く人材である。彼らのツケは国中の臣民にまで被害が及ぶのだ。

今のところ見目麗しい彼らの談笑する姿はのどかで平和な印象を受ける。

(この国、大丈夫かしら?)

だが、その未来を思うとウェルシェには数千、数万の、あるいはそれよりも遥かに大勢の者達の慟哭が聞こえてくるようだった。

だから、ウェルシェは心に決めた。

(これは、予防線を張っておかなくっちゃ)――と……

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